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狼は帰らず
『狼は帰らず』 佐瀬稔 著
一匹狼と言われた孤高のアルピニスト、森田勝の生き様を描いたノンフィクション。
何だかんだと言われながらも自分の生き方を最期まで貫いて、人に軽蔑されながらもどこかで認められ、そして愛されていた一人の登山家。ここまで本能の思うがままに自分の道を貫き通すことは並大抵ではないね・・・と感嘆する一方で、個人的な感想としてはやはり彼の適応能力の無さを終始疑わずにはいられなかった。
「空気を読まない」「空気を読めない」
現代用語ではいわゆる“KY”という言葉で簡単に片付けられそうだが、これも度が過ぎれば適応障害の類であろう。しかもこれは人に教えられて治るものではない。
ある意味、病的なまでの自己中心的な考え。
スィッチが入ると山の事しか考えられなくなり、途中でスィッチが切れると途端に背を向ける。
こんな性格の男が、生死を賭けて山に登るというのだから、読み物としてはたしかに一風変わって面白い。
自伝であればもっともっと面白かったのかもしれないが、こういう種の人に関しては客観的に判断できる者が書くべき書物だったのかもしれない。
まぁ、理由はどうあれ、なかなか友達には出来ないタイプである。
それでいて単独登攀よりもパートナーとザイルを組んだ方が何倍も力を発揮するというから、困ったものだ。
読み始めは、いや、この本の大半は今までに無い微妙な気持ちで読んでいた。
一体何なんだこの男は?
何だこの人の考え方は?
嫌なヤツだな~。
全く社会に適応してねーじゃん。
そもそも、何で自分はこんな人の本を読んでるんだろう?
いくら我武者羅に夢を追うとはいっても・・・これは無いよね。。。
そんな思いで読んでいたはずなのに、読んでいくに連れて少しずつ彼を思う気持ちが変わっていった。
それは著者が筆跡で読み手を誘導したのではなく、ただ単純に彼が時折見せる人間らしく、人間臭い感情表現に依るのだろうか。
K2では本当に残念に思ったし、1回目のグランドジョラスでは半ば呆れながらも心の中で長谷川よりも森田を応援していた。帰らないと分かっていた2回目のグランドジョラスでは、何ともいえない複雑な思いで活字を追った。
ってか、アイガー北壁で見せた涙と、アコンカグアに行けなかった当時の恨み節。
相反する二つの行動にどちらが本当の森田勝なのか分からなかったが、読み終えて思えば、どちらも本当の森田勝なのだろう。そう考えれば、全てが納得できる。
いやー、こういう特異なケースもあるのかもね。
友達にはしたくないが、森田勝という一人の人間に非常に好感と興味が持てた1冊。
最初は三スラだのルンゼだの、山と無縁な自分にはさっぱりの単語や地名が並んで読み辛かったが、終わってみれば何のその。
結果、文句無しで☆5つ。
2012/01/31 (Tue.) 読み物