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2012
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おじいさんからのメッセージ
自宅から約50km地点は田畑に囲まれた長い長い直線道路。
コンビニはおろか、自販機も無い。日陰も無い。
そんな道を歩いていた時のこと。
【朝はやっぱ、牛乳だよね】
朝6時30分頃に竹原市内のコンビニで少し早めの朝食を摂り、再出発。
国道二号線は再び山の中へと入った。そこから次のコンビニまでは15km強。15kmと言えば近く感じるかもしれないが、歩けば3時間以上は軽く掛かってしまう距離である。
【日が昇るにつれて、暑さが増していく…】
朝7時の時点ですでに汗をかき始め、太陽が昇るにつれて発汗量は増す一方。親愛なるセニョール印の青いTシャツは、人工塩田により所々が白く変色している。
暑い・・・。
足痛ぇ・・・。
暑い・・・。
しんどい・・・。
暑い・・・。
これのどこがベストシーズンじゃ。
これなら冬に歩いた方がよっぽどマシだ・・・。
暑い・・・。
喉乾いた・・・。
スタート開始から10時間程度は愚痴りながらも前向きに歩いていたが、あまりの暑さと靴の中の不快感、足裏の痛みに堪えかね、40km地点で早くも心が折れかけた。
「いつまで耐えられるんだ・・・?」
「これからもっともっと暑くなるじゃろ・・・。」
「岡山までは到底無理なんじゃないか・・・?」
疲労感と共に出て来る弱音のオンパレード。
それまでは退屈凌ぎにアカペラで歌を歌っていたが、心が折れかけたその時は、温存しておいたI-podが満を持しての登場となる。長渕の桜島LIVE(4枚組アルバム)を聞きながら、心の底から気力を奮い立たせるのがこのような旅のお決まりのパターン。
「行くぞ今日は朝まで~!行くぞ~!行くぞ~!!行くぞ~!!!」
という長渕のオープニングの雄叫びに合わせて、歩様も心なしか力強くなった。
この逆境を、推進力に変えて!
・・・。
でもやっぱ、暑いものは暑い。。。
体力と気力を同時に奪う真夏日の暑さ。こいつはマジでハンパ無いよ。
不快に蒸した靴の中で、両足裏にはマメが出来始めた。
過去と比較してみても、この時点で最悪のコンディション&心身ともに最も少ない余力。
それでも少しずつ、東へ東へと歩みを進めていた50km地点。
長渕の名曲「とんぼ」が終わり、イヤホンからは「情熱」が流れ始める。
『悔しさをかきむしったら 涙が出てきた
とめどもなく初めて俺 弱虫になっちまった』
『震えてきたよ 震えてきたよ
誰か 上等な優しさに すがらせてくれ』
『情熱情熱情熱 ほら情熱情熱情熱
真っ赤に燃え滾るあの時の 情熱はどこだ!!』
そうだよね。情熱だよね。スタート前は情熱、凄かったもんね。
情熱燃やして、がんばらんといけんね!
ちょうどその時、田畑に囲まれた左側の農道から、一台の軽トラックがオレの歩いている国道に向かって来た。
小さな十字路でちょうど出会い頭のタイミングになったが、軽トラが一時停止したので、オレは軽く会釈をして少し小走りに軽トラの前を横切った。
「ったくもう、タイミング悪ぃーな。あんまり小走りもしたくないんだよね・・・。」
なんて自己中な考えを脳裏に浮かべながら。。。
しかしそれから数秒経って、イヤホンの音楽越しに背後から軽トラのクラクションが聞こえた。
気になって振り返ると、軽トラを運転していた人の良さそうな顔をしたおじいさんが、勢い良く軽トラから飛び降り、こちらに向かって小走りで走り寄ってきた。
背中の少し曲がった小柄なおじいさん。何故だか満面の笑みで。
そしてオレのところまで来ると、
「お兄さん、これを持って行きんさい。暑いけん、気を付けるんよ。とにかく、気を付けるんよ。」
と、オレの前にアクエリアスのペットボトルを差し出した。そして半ば強引にオレの掌にそれを乗せると、後は何も言わずにまた小走りで軽トラに戻り、そのまま軽トラは唸りを上げて走り去って行った。オレからの感謝の言葉なんて全く興味が無い素振りで。
【軽快なエンジン音と共に、去り行く軽トラック】
おじいさん、凄く嬉しそうにニコニコしててね。これでもかってくらい優しい目をしてた。オレもそんな無償の優しさに触れて、久しく味わっていないほどの幸せな気分になれた。こんな見ず知らずのオレに、わざわざ車を降りてまで。。。
本当にありがたかった。本当に嬉しかった。
痛み。不快感。暑さ。
うん、ちょっとだけ忘れてた。
よーし、このアクエリアスを飲んで、次のコンビニまで頑張るか!
やってやるぞ!
って心からそう思った。
そう思いながらペットボトルを開けようとすると、アクエリアスのペットボトルにプリントされてあった大きな白い印字が目に飛び込んできた。
「僕にはできる」
ふはは。
あまりのタイミングの良さに、思わず笑いが込み上げてきた。
今のオレに、あのおじいさんとこのメッセージのタイミング、やばくね?
ちょっとだけ笑って、それから鳥肌が立った。
再び装着したイヤホンからは、相変わらず「情熱」が流れている。
『恐くなってきたよ 恐くなってきたよ
誰か 俺に一歩踏み出す勇気と 力をさずけてくれ』
『全て捨てちまえ たかだかそんな俺
ひらきなおって明日を いっちょひっぺ返して殺れ!!』
『ほら 沸いてきたぞ 沸き上がってきたぞ
人間の意地と情熱が 煮えくりかえってる』
それからコンビニは2つスルーして、さらに2時間以上歩いた。
そしてゴールまで行けないと悟った時、真っ先に浮かんだのはあのおじいさんの笑顔だった。
2012/09/12 (Wed.) 人生いろいろ